夜。わたしは夕飯もたべずに、ベッドでふて寝していた。話は全部つながった。ホシミくんの行動も教頭先生の行動もカミナさんが電話をかけてきたことも。カミナさんは、幼なじみのホシミくんに、内心のために人を騙すことをやめさせるために、わたしに教えてくれたのだ。ホシミくんが不登校だなんていうのが嘘であるということを。
 はは。なんだか笑った。
 でも、これでもほんとうに学校になんて行く理由がなくなった。元からすればホシミくんがいたから贔屓したりとかしたらまずいからと思って、辞めることにしたのだから、ほんとうのことがわかった今はふつうにしてればいいってことなのはわかる。
 だけどそんなことが簡単にできるほどわたしは強くないのだ。
 いつも強いフリして、いつもほんとうはおびえていて、素直な感情なんて出せたことがない。どうしてそんな性格になったのかはわからないけど、もうそれでずっと来て、今更、変われたりはしないんだ。
 こうありたいという理想を描き、
 そうなったフリをして上手に人を騙す。
 それは、理想の行動をするという意味で優れていることなのかも知れないが、本心との差がひずみを生み出し、そんな傷がそのうち壊れてしまう気がする。
 それが今までは、中学・高校・大学と環境が変わることで壊れたじぶんを作り直すことができた。ほんとうのじぶんではないけれど、いつわりのじぶんを作り直して、新しい環境に挑んだのだ。でも、今、またその限界が近づいてきたこの瞬間に、乗り換える新しい環境はなかった。今まで見たいに年単位での乗換先が用意されていなかったのだ。
 それでも続けてきた。
 それでホシミくんに出会った。
 だからそれがきっかけになるように思えた。
 辞めようって。
 そうしたら夢のような時間を持てた。
 にせものだった。
 ベッドに顔をうずめたままで、ふがいなさに泣きそうになる。しかし、涙はわずかに目を滲ませただけで、こぼれはしなかった。今のわたしというキャラクターがそれを拒んだのだ。
 泣きたいときに泣ければいいのにね、と思う。
 涙にはストレスを発散するという効果があるらしい。ストレスの原因物質を外に吐き出して楽になるために人は悲しいときに涙を流すのだと。
 それが自由にできたら強くなれる気がする。
 自由にできないから、いつまでも湿った気持ちがじめじめと体に残ってしまう。ぬかるんだ泥んこみたいにいろんなところにこびりついて、よごして、イヤだな……。
 寝よう。
 明日、教頭先生に電話して、ほんとうにちゃんとやめさせてもらおう。
 わたしは目を瞑って暗闇に潜った。眠ってしまおうと思った。
 だけど、暗闇に浮かんだのは、ホシミくんのやわらかそうな笑顔だった。
 それは嘘だったのだけれど。